相続ブームで賃貸マンション経営が流行っていますが、将来の空室については相続税に与える影響も
大きいので十分に注意する必要があります。
賃貸マンションやアパートの場合には賃貸している部分については借家権控除として土地建物の評価が
減額されることになりますが、相続開始時点で空室があった場合には原則として借家権を控除できない
ことになっています。
ただし、マンション等が課税時期においてたままた一時的な空室である場合には、評価減を認めるとい
うのが実務上の取扱いです。
さて、一時的な空室に該当するかどうかはどのように判断するのでしょうか。
国税庁質疑応答事例「貸家建付地等の評価における一時的な空室の範囲」においては、空室部分が、
①課税時期前に継続的に賃貸されてきたものかどうか
②賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われたかどうか
③空室の期間、他の用途に供されていないかどうか
④空室の期間が課税時期の前後の例えば1ケ月程度であるなど一時的な期間であったかどうか
⑤課税時期後の賃貸が一時的なものではないかどうかなど
の事実関係から総合的に判断するものとされています。
国税不服審判所の公表裁決事例として平成26年4月18日裁決は、相続財産であるマンションの部屋の
一部が賃貸されていなかったため、空室部分について貸家建付地として評価減が認められないとされた事
例がありました。
今回の裁決の評価対象となったマンションは、相続開始の前月末(平成21年7月31日)時点で35件が
空室でした。
審査請求人である相続人は、空室であったとしても、賃貸の意図をもって経常的に維持・管理を行い、賃借人
の募集業務を継続して行っているのであるから、課税時期において、一時的な空室に該当し、賃貸割合(入居率)
100%として評価すべきと主張しました。
これに対し税務署は、空室の期間が最も短い期間でも約4か月であり、いずれも課税時期の前後の一時的な空室
とは認められないと主張しました。
裁決は、①相続開始日から4年後においてもいまだ空室が複数存在すること、②相続開始日後に賃貸された独立
部分についても、相続開始日前後の空室期間は、最も長いもので8年間、最短のものでも4か月を超える期間に
及んでいること、③M号室は相続開始日の数日後に賃貸借契約が締結されているものの相続開始日時点で、既に
7か月以上空室であったことといった空室期間等の賃貸の状況に照らしてみると、請求人が主張する家屋の維持
管理の状況や賃借人の募集の状況等の諸事情を考慮したとしても、空室が一時的なものと認めることはできない
として請求人の主張を退けています。
相続財産の評価において、マンションの空室が一時的なものであるか否かはいつも判断に迷う点です。
今回の裁決は、空室期間が最短で4カ月を超えているなど、国税庁の質疑応答事例が示す前後1か月を超えたもの
であったこともあり、形式基準で請求棄却となったことがうかがえます。しかし、あくまでも一時的な空室か否かは、
1カ月基準のみで形式的に判断するものではなく、その地域のマンションの需要と供給状況やいかなる状況下におい
て空室期間が生じていたか等、総合的な判断となりますので、相続税申告にあたっては個別に検討する必要があります。